ライフデザイン学科 研究室ブログ LABORATORY BLOG

「ちちぶカクテル」開発のための、秩父現地視察 その1
2023年8月3日

 ライフマネジメント研究室では、今年度埼玉県庁と提携し、秩父地域とその物産をアピールするための「ちちぶカクテル」を開発することになりました。そこで、秩父地域の魅力の発掘とカクテルのモチーフや造形についてのインスピレーションの獲得のため、この7月に1泊2日で秩父地域を巡る現地視察を行いました。今回はその様子を2回に分けて詳細にご紹介します。

 

◎横瀬町歴史民俗資料館

 始めに「横瀬町歴史民俗資料館」に伺いました。学芸員の方のお話を伺いながら、秩父地域の自然や暮らし、その暮らしの中で使われていた道具を見学しました。館内には、かつて秋祭りで打ち上げられていた高さ3.5mの大きな打ち上げ花火の筒や一尺(約30㎝)もある花火の玉が展示されており、貴重な品を見学させて頂きました。横瀬地域はもと忍藩の所領であり、藩主の勧めもあって養蚕と機織りが盛んになり、裕福な人が多かったことが、こうした行事の背景にあるとのことでした。

 しかし、この秋祭りは、現在は行われていません。その理由は、関東大震災が発生した際、地元の人々がその祭りに使っていたお金を被災地支援の寄付に宛てることにしたためだそうです。悲しくも横瀬の人々の優しさが伝わるエピソードでした。

 また資料館には、秩父のシンボルである武甲山の頂上に祀られている武甲山御嶽宮殿のレプリカが再現されています。武甲山の名は、ヤマトタケルが東征時、この山に登って神を祭り、自分の兜を脱いで岩室に収めたことに由来すると伝わりますが、武甲山は歴史的には「嶽(たけ)」、「秩父ヶ嶽」「武光山(たけみつやま)」「妙見山(みょうけんやま)」「武甲山」と変遷してきたことを教えていただきました。(岡野)

 

◎寺坂棚田・武甲山の風景観察

 歴史民族資料館を訪れた後、埼玉県下では最大の棚田である寺坂棚田へ向かい、見学を行いました。全体面積が約5.2ha、うち田んぼは約4ha。初夏の田植えから、初秋には黄金の稲穂、朱色のヒガンバナなど、里山の風景が四季を通じて楽しめるスポットです。平成19年から7月には「寺棚田ホタルかがり火まつり」が開催され、棚田に約500個のかがり火を点火し、幻想的な空間を体験することができるとのことです。

 ゆるやかな傾斜地に広がる鮮やかな緑色の水田と、高く聳える武甲山の風景の美しさ、そして爽やかな風と自然の音にも癒され、心が落ち着く時間を過ごすことができました。武甲山と寺坂棚田ともに、自然と人々の営みが調和していると感じました。地元の人々の手が込められた努力により、棚田の景観が保存されていることは素晴らしいことであり、日本の農村の魅力を存分に味わうことができました。(來田・松﨑)

 

◎昼食後のかき氷

 当日はとても暑かったこともあり、昼食後は冷たいかき氷を食べました。かき氷やジェラートからは「色が変化するカクテル」の着想を得たり、日本酒アレンジの可能性を見出したりと、昼食時間の間も私たちの頭はカクテル開発モードでした。(佐藤)

 

◎矢尾本店「酒造りの森」

 矢尾本店「酒造りの森」を見学しました。同社社長様より酒造りの行程を過去の歴史と共に説明していただきました。酒造りの仕込みでは冷たい水であることがポイントとなるため、朝の5時から作業を始めるなど過酷な製造過程であることを学びました。

 他方で、松方デフレといわれる明治時代の不況の中で養蚕業、製糸業を生業とする秩父地域の農民が苦しんでいた時は、「自分だけでなく地域もよくないといけない」という考えから、酒造りをやめ酒米を食用米に回して地域の人々に提供するなどしたため、秩父地域の農民が政治運動と相まってついに武装蜂起し、役所や富豪を襲った(秩父事件)際も、富豪であるにもかかわらず矢尾本店は襲撃されることはなかったとのことです。このような「地域と共にあるビジネス」というのは、ライフデザインの理念に照らして、これからのビジネスに求められる姿であるのだろうと思いました。

 次に、ビール工場を見学し、年中どこかで祭りをやっている秩父地域そのものように、毎日をハレの日にするというコンセプトで開発され、発売されたばかりのクラフトビール「FEST365シリーズ」の中の「7月20日の水しぶき」を試飲させていただきました。味のクセもなくなめらかな飲み口でとても飲みやすくおいしかったです。地名を冠するクラフトビールが多い中で、祭りの日と情景を銘柄にするところに他にはない新規性を感じました。(森)

 

◎おがの化石館

 この大きな模型はパレオパラドキシアという哺乳類の復元模型です。はるか昔、秩父盆地には海が広がっており、その地層や化石から生命の様々な営みが繰り広げられていたことがわかります。今からおよそ1500万年前(新生代第三期中新世)に日本と北アメリカ西海岸の海辺で生息していたと言われる「パレオパラドキシア」ですが、現在似たような骨格を持つ生物が生きていないため、その正体は謎に包まれています。「パレオパラドキシア」という名前も「太古の(palaios)矛盾した(paradoxus)生物」という意味があるそうです。秩父は世界で最も多くパレオパラドキシアの化石が見つかっている場所でもあり埼玉の奇獣として多くの注目を集めています。

 ちなみに、秩父鉄道を走るSL「パレオエクスプレス」は、このパレオマラドキシアに由来しています。(谷)

 

◎いちご農家(いちごハウスAYA)

 1日目の最後は、「ちちぶカクテル」の有力な素材であるいちごについて学ぶため、吉田フルーツ街道沿いに位置する「いちごハウスAYA」を訪れました。日照時間やハウス内温度等の管理、データ解析など、いちごに最適な環境作りを徹底していることが印象的でした。また、埼玉県の「特別栽培農産物」認定農園であることに加え、低農薬で安心・安全ないちご作りを目指していることに感銘を受けました。「いちごハウスAYAさん」で育てられたいちごを求め、毎年、様々な県から多くの人が訪れるそうです。栽培に携わっている方のいちごへの愛が伝わっているのだと思います。

 ここは、本圃を腰の位置に設置する「高設栽培」なので、かがむことなく立ったまま、いちご狩りができます。訪問時はいちご狩りのシーズンが終わってしまっていたため、試食させていただけなかったのが大変残念でしたが、いつか「いちごハウスAYA」さんで栽培されたいちごをいただきたいです。(齋藤)