ライフデザイン学科 研究室ブログ LABORATORY BLOG

純喫茶巡り 第1弾
2023年4月13日

 ライフマネジメント研究室では、これまでの古民家喫茶店探訪シリーズの姉妹編として、「純喫茶」へのオーナーの思い、インテリアへのこだわり、食への配慮、地域とのかかわりなどを尋ねる「純喫茶巡り」を開始しました。今回はその第1弾の報告をお届けします。

 

◆渋谷の隠れ家「茶亭 羽當」◆

今回訪問したのは、東京都渋谷区の裏道にある古風な喫茶店「茶亭 羽當」(読み方は「ちゃてい はとう」)です。創業1989年から営みを続けるお店で、JR渋谷駅から徒歩5分ほどの場所にあり、ビルの横の坂道を上った先に、どこか昔からの懐かしい外観と雰囲気を醸し出す木造の扉が出迎えてくれます。

 

 「羽當」という特徴的な名前の由来は、オーナーの名字からとられたものだということです。今回は店主の寺嶋さんにインタビューをしました。

 

◇とても素敵な食器が並んでいますが、これらはすべて寺嶋さんが揃えたものですか?

 実はこの店って、良い意味でコンセプトがないんですよね(笑)。この食器達は全て私が揃えたわけではなく、お客さんに似合いそうな物をヨーロッパやアジアなどからオーナーと一緒にこの35年間に少しずつ揃えていった結果、気づいたらこんな形になっていたのです。

 

◇35年の思い出がその1つ1つが食器に込められているのですね!店長はどのようなきっかけでこの喫茶店の店長となられたのですか?

 35年前、新宿のとある珈琲屋でアルバイトをしていたとき、「今度、渋谷で珈琲屋を始めたい」と声をかけていただいたのがきっかけです。今思い起こすと、珈琲屋、喫茶店ファンのオーナーと、プレーヤーの私がうまくマッチングしたからこそ、この店があるのだなと思っています。

 

◇そうだったのですね!創業当初から変化してないものもあるのですか?

 奥の柱時計や棚、机などは当初からあります。カウンターもそうです。11メートルもある松の木の1枚板で作られています。松材で縦にまっすぐ木目が入っている物は珍しく、オーナーのこだわりだったんです。食器など店内の装飾と相まって和洋折衷の雰囲気になっていきました。

 

◇長く35年も営業されている中、渋谷の街で感じられる時代の変化とかってありましたか?

 そうですね、コロナウイルスが流行している期間は特に渋谷の人通りがなくなって、周りのお店も休業していく中、「羽當」のコーヒーを求めてきている常連さんのためにも営業を続けていました。気にかけてくれるお客様も多くいて、すごく嬉しかったです。

 

◇今は若者の中でレトロな喫茶店などが流行していますが、客層は若い人が増えていますか?

 今は若い人がお店の大体を占めています。

 

◇若い人が増えていくとお店全体が賑やかになりそうですね。

 そうですね、でも昔からの落ち着いた空間を提供してきたいので、雰囲気を壊さないためにもお客様に声かけをする場合もあります。

 

◇何年経っても変わらない雰囲気作りがたくさんの方に愛されているのですね。そんな歴史ある「羽當」のおすすめのメニューはありますか?

 飲みやすいのは「羽當オリジナルブレンドコーヒー」です。この店の顔といっても過言ではありません。ミルクに水出しのドリップを注いだワイングラスに入れた「オ・レ・グラッセ」は若者に今人気で、‘’映える‘’そうです。また、ケーキは全てその日に店内で手作りしています。夕方には完売してしまうほど、こちらも人気です。

羽當オリジナルブレンドコーヒー(左) 紅茶シフォンケーキ、ベイクドチーズケーキ、かぼちゃプリン(右)

 

◇寺嶋さんのお話をお聞きすると「茶亭 羽當」の魅力に惹き込まれそうです!最後に、今後も変わらずやっていきたいことや目標などありますか?

 今ってコーヒーチェーンとかで使う機械で抽出したりと、効率よくコーヒーを提供しているお店が増えているけれど、私はひとつひとつ時間をかけてコーヒーと会話するように丁寧に淹れています。周りの変化に流されず、これを羽當のこだわりとして大切にしていきたいと思っています。

注文が入ってから一から丁寧にコーヒーを淹れる寺嶋さん

 

◆インタビューを終えて

 今回訪れた「茶亭 羽當」さんは、都会の喧騒や慌ただしい日々を忘れさせてくれるような空間であり、1杯のコーヒーと向き合ったり、時間を忘れて読書に夢中になったり、自分ひとりが好きな時間を過ごすことが出来る、そんなお店だと感じました。

 眠らない街「渋谷」の中で温かく出迎えてくれる店内の雰囲気と、優しい店主との会話、耳の奥で静かに流れるBGMが、家でもなく職場でもないサードプレースとして、今後もたくさんの人々に愛され続けていく存在であり続けていくのだなと、お話を聞いて感じました。また、私たちがカウンターでコーヒーを飲んでいる間にも、隣のお客様と店主が野球の話で盛り上がっており、人とのつながりを非常に大切にされているのだなと感じました。これはライフデザインの「社会的豊かさ」に通ずるものだと感じました。

 今は大量生産、大量廃棄が当たり前の世の中になり、人々の間で物に対しての愛着心が薄れているように感じます。でも、35年をかけて揃えたこだわりの食器、35年もの間、大切に手入れして使用している一枚板のカウンター、それに大きな古時計をみると、室内空間に深い趣を感じることができ、モノには便利に使えるという機能以上の価値があることを実感させてくれます。ここにライフデザインの「文化的豊かさ」が体現されているのではないかと感じました。

 「茶亭 羽當」さんには、ここでは紹介しきれないほどの食器や家具が並んでいます。何度足を運んでも楽しめること間違いなしです!是非みなさんも訪れてみてください!

 

聞き手:北澤、野口、田中

訪問日:2023年3月22日