ライフマネジメントゼミでは、ライフデザインの理念を空間として象徴しているような古民家カフェを訪れ、オーナーの思い、インテリアへのこだわり、食への配慮、地域とのかかわりなどを尋ねるプロジェクトを開始しました。

　そのシリーズ第6報をお届けいたします。

♦花鈴（北鎌倉）♦

今回訪れたのは、神奈川県鎌倉市山ノ内にある古民家カフェ「花鈴」(読み方:はなれい)さんです。北鎌倉駅から線路沿いを歩いて数分、円覚寺の脇にひっそりと佇むお店です。「なんでもやってみること」を大切にされている店主の井手さんに、カフェに込められた思いやこだわりについてのインタビューを行いました。

●いつからこのカフェをやっているのですか？

　ちょうど10年ほど前です。

●なぜ北鎌倉にお店を出したのですか？

　家内が退職したタイミングでたまたまこの物件を見つけました。ここが気に入ったので、先代やっていた団子屋さんを買い取ってこのお店を始めました。先々代はここを自宅兼喫茶店にされていたようです。その時にコーヒー等を扱っていたと聞いています。その後先代の方が退職後にここを見つけて購入したそうです。そのため、私は3代目に当たります。
　妻はカフェをやりたがっていましたが、私はそういうわけではなく、単純に流れのままに始めました。先代の収支表を見たところ儲かっていませんでしたので、妻は会社勤めを続けながら私が経営をするという形でカフェをはじめました。行き当たりばったりで、先のことを考えずに行動していました。

●このカフェのこだわりは何ですか？

　先代はみたらし団子にこだわりがあり、京都のみたらし団子を再現していたので、それを受け継いでいます。そのため、黒糖など材料にはこだわっていて、全国から取り寄せています。
　建物自体は築60年ほど。先代が改装したものを「楽居」さん(湘南エリアで事業を行っている建築会社)の大工さんに頼んで改装してもらいました。全面的に建て替えたりするのではなく、元々あったものに自分の好みを加えてアレンジする方が好きです。

●お店の経営で大切にしてきたこと

　従業員に楽しく働いてもらうこと。従業員が幸せでないとそれがお店に表れるから。そして、お店の雰囲気があまり騒がしくならないよう心がけています。

●どのようなお客さんが多いですか？

　平日は近所に住む中高年の方が多いです。常連客も来ます。しかし、6月の紫陽花のシーズンと11、12月の紅葉のシーズンには観光客が非常に多く来店し、大繁盛します。この期間の売上は年間売上の半分を占めます。

●最近は何か新しい取り組みはしていますか？

　それは無いですね・・・。建て替えようかなとか、誰かやってくれないかなという話を夫婦でしたりはしています。私自身はこの店を何とかしようと考えています。ちょっと古いから。京都の町風の家を建てようかとも思って、一応設計まではしています。ただ、ちょっと高いなと二の足を踏んでいます。自分が想像するような町屋風にするとなると、予想の2倍くらいかかってしまうので、ちょっと待ったという感じです。またちょうどその頃コロナになってしまったので、今は様子を見て、来年、再来年になって落ち着いてきたら動き出すかもしれません。

●今後の目標ややりたいことはありますか？

　本当は、漁船を買って、畑を買って、魚とか野菜とか、「目に見えるもの」を自分で作って、それを出す店をやりたいなと思っていたんですが、もう自分の目が利かなくなって諦めてしまいました。「目に見えるもの」は信用できますから、そういうタンジブルなもので“働いている”という実感が持ちたかった。だから漁師さんとかには魅力を感じます。

●インタビューを終えて

　井出さんの、先代が受け継いだ喫茶店を受け継いで経営していくという姿勢には、伝統文化の良さを、世代を超えて引き継いでいくという、ライフデザイン学科の「文化的豊かさ」に通ずるものを感じました。また、観光客や外部のお客さんに向けた経営を行うのではなく、地元客に愛され、地域コミュニティの結節点になっているという点で、「社会的豊かさ」が体現されている場であることを感じることができました。
　他方で、井出さんの、人を想う優しさ、温かさを強く感じました。先代の方、従業員の方、奥様、お客さんなど、関わるすべての人に感謝の気持ちを持ちながらお店を経営されていることが、このお店が信頼され、愛され、長続きしている理由なのではないかと感じました。
　北鎌倉の景観に調和した外観と、店主の思いや好みが表現された落ち着いた内観、和の味わいを堪能できるメニューは、訪れた人を温かい気持ちにしてくれること間違いなしです。鎌倉エリアに訪れる際は、北鎌倉の花鈴さんにぜひ足を運んでみてください。

聞き手:井上・早津・白澤
訪問日:11月15日