ライフデザイン学科 研究室ブログ LABORATORY BLOG

素敵な住宅探訪第1弾
2021年4月9日

 ライフマネジメントゼミでは、古民家カフェ探訪のほか、自然と伝統を大切にする住宅の探訪プロジェクトも開始しました。今回は、北区十条で、元々の住宅の構造や使われていた建具の一部を活かしつつ、自然素材を使ってリノベーションをしたお宅にお邪魔し、設計者と施主のご夫婦にお話を伺いました。

 

「住み継ぐ」ということ(十条の家)

概要

 施主のお父様の死去に伴い、土地が三分割されその1つを相続することになったが、築80年にもなる思い出深い家を一部でも残したいというお母様の強い思いを受け止め、以前の住宅よりも狭い敷地面積の中でそれを実現するため、住宅を縮小しながら、残せるものは残すというリノベーションを行ったもの。

 

費用もかさむリノベーションをしようと思ったのはなぜですか。

 今の建物は古くなったら壊すというのが当たり前になってしまい、法律や規制からも伝統を引き継ぐことは難しくなっているが、日本の伝統文化は大事であり、それが引き継がれなくなることに危機感を感じている。新しいから素敵ではなく、もともとの文化を残しつつ変えていき、自然と共存することが大切だと考えている。

 日本建築を支える技能も引き継いでいく必要があり、手間がかかったとしてもそれを応援したいと思ったため、例えば、一部の壁塗り(漆喰壁)は仕上げが多少荒くなるといわれたが、若手の職人に任せることで若手が技能を習得する機会にしてもらうことにした。

 

建築面での工夫にはどのようなものがありましたか。

〇住宅寿命を延ばすための基礎の打ち直しと曳家(ひきや)

 上物の木造部分は湿気にさえ気を付ければ何百年ももつものである。よって、家を永く持たせるためには何より基礎が肝心であるが、元の家は基礎がかなり痛んでいたので、基礎を作り直すために、曳家(家を引っ張って移動させること)をして、新しい基礎を作ってからまた上物をもとの位置に戻した。

 現代の建売住宅などの基礎は施行がしやすいように含水率を高くして流動性をよくしたコンクリートを使用するが、これではコンクリートの耐用年数が短い(30~40年ほど)ので、扱いにくくなるのは分かっていたが、水の量を減らしたコンクリートを使用することとして、家の寿命を伸ばした。

 

〇省エネルギーで快適な室内環境を実現

 夏は室内全体をエアコンなどで冷やす必要がないようにするために、屋根を二重にして太陽光線を遮熱し、冬は対流熱で室内全体を暖めるのではなく、温水の放射熱を利用できるように床暖房を設置して、エネルギーを使わないで快適な空間を作れるようにした。

 また、窓を引き違い窓ではなく、片引き窓にして、南北上下の風通りを良くし、同じ気温でも体感温度が下がるように工夫した。

 さらに、土壁や畳といった調湿作用のある自然素材を使うことで、湿度が夏少なめに冬多めに自動調整されるようにして快適性を保てるようにした。

 

暮らしの変化への対応にはどんな工夫を凝らしましたか。

 将来の暮らしや家族構成の変化にも対応できるように、固定された部屋を作らないようにした。例として、取り外せられる障子で部屋を区切ったり、ベッド、机、椅子などの家具を一切置かなかったり、使う人や用途を問わないようにした。もっともこれは、新しい工夫ではなくて、もともと日本家屋が持っていた知恵であり、それを引き継いだに過ぎない。

 しかし、日本家屋の弱点であった台所、浴室、便所、洗面所などの水回り部分については、現代のライフスタイルに適応させるために改修を行った。

 

伝統の引継ぎと新しいものの導入のバランスはどのように工夫しましたか。

 古いものを引き継ぐのがいいといっても、金銭面、安全面の点で全てを残せないので、部分的にリノベーションしたり、多少素材を替えて元の造形を継承したりしている。例えば、柱は元の家のものをそのまま利用しているが、和室の天井と壁だけ残しつつ床は机座中心の現在のライフスタイルに合わせてフローリングにするとか、床の間の赤い砂壁は同じ材料での復元には高いコストがかかるので漆喰に赤い色粉を入れて再現するなどしている。

 

ゼミ生の感想

 家のほとんどが無垢の木材で作られていて、柱や梁が「現し(あらわし)」である真壁工法の住宅を見るのは初めてだったが、それら構造材が作るデザインや欄間やガラス戸、雪見障子などの古い建具の意匠が素敵で、また木の温もりが安心感を与えてくれ、リラックスできる印象だった。

 さらに、設計者と施主のお話を伺って、伝統をそのままの形で引き継ぐことは難しいかもしれないが、洋、モダンの要素など新しい要素を融合させつつも、伝統を残すことが大切だと感じた。

 現代は、早く建てたものを早く買って早く捨てるという、“消費する”住宅が多くなってしまったが、伝統建築の良い点を生かして、長く住める持続可能な住宅とその建築技術を未来に残したいと思った。

 実際に訪れて、本物を見たり、建てた方の思いを聞いたりすることで、普段の大学の講義ではできないような貴重な体験学習の機会となった。そして、私達自身が、将来、住宅に対してどう向き合っていくべきかを考えさせられた。

 

書き手:倉島・横山

訪問日:2021年3月25日