ライフデザイン学科 TOPICS

今、ライフデザインが求められる理由 ~インテリアデザインから考える~
2024年7月3日

 私たちのライフスタイルは、経済成長や科学技術の発展の恩恵によって、さらにグローバル化の進行や情報社会の到来によって、かつてなく便利で快適なものになっています。しかし、他方で気候温暖化などの地球環境問題の悪化、ワークライフバランスがとれない働き方、子育てのしにくさ、家族形態の変化、都市部の過密化と地方の過疎化など、日々の生活を送るための基盤というべき部分に大きな問題を抱えています。

 同時に、そうした状況はどこか外からやってきたものではなく、私たちがどんな生活を望み、営んでいるかによってもたらされるものでもあります。つまり、私たちの生活とこれを取り巻く環境は、相互に影響し合って時代を形作るという一蓮托生、もしくは共犯の関係にあるのです。

 よって、もし現在の状況に問題があるのであれば、それを乗り越えるために、どのようなライフスタイルが望ましいかを真剣に考える必要がでてきました。ここに、ライフデザインが求められる理由があるのです。

 

ライフデザインの方法1-生活の「測りがたい価値」「見えない価値」に気づく

 ライフデザインの目標は、経済的な豊かさを超えた「真の豊かさ」の実現です。「真の豊かさ」は、例えば、自分の居場所や生きがいをもつこと、良好な家族関係をもつこと、機能的であるばかりでなく美しい生活用品・室内空間と接すること、見た目に心地よくて美しい地域に住まうこと、日本の伝統を賞味すること、充実した余暇活動をもつこと、自然とのふれあいが豊富であることなどから得られる「心の豊かさ」を指し、そしてそのようなライフスタイルが持続可能であることを意味しています。

 ところが、こうした質的な豊かさに値段はつけられませんから数値化されにくく、したがって私たちは往々にしてその価値に気づかないのです。「すばらしい景観だ」「楽しい交流会だった」「味のある食器だ」と思っても、それに客観的な点数はつけられませんよね?質的に評価しにくいものは、価格(市場での交換価値)で評価されてしまい、安いものは粗末にされがちですが、安いから悪い、高いからよいとは限らないことは皆さんのこれまでの経験からも分かるのではないでしょうか。大量生産するから安くなり、安いからといって大量廃棄しているのでは、地球環境に「悪い」のは当然のことながら、実は自分自身にも「悪い」ことかもしれないのです。よって、「真の豊かさ」をめざすには、まずそれらの「測りがたい価値」に気づくことから始めなければなりません。

 さらに、モノや家、場所は、それと長く接することで自分自身の過去や誰か大事な人との思い出が込められて、自分自身の一部になるという性質を帯びています。こちらの場合は見た目が美しいとは限りません。古びたモノであっても、多少猥雑な場所であっても、その中に「見えない価値」が存在しているものなのです。こちらも表面的な経済的価値からは推し量ることはできません。

 ではどうしたらその「測りがたい価値」「見えない価値」に気づくことができるでしょうか。もちろん、生活の様々な分野にそうした価値があるという事実についての知識学習をすることが重要です。特に「見えない価値」の理解のためには最も大事なことです。

 しかし、「測りがたい価値」については、頭で理解するだけでは本当に理解したとはいえません。芸術作品や美しい風景を評論家のコメントつきの写真でみても、その美しさが腑に落ちないのと同じです。知識を得たあとは、それを実際に体感・体得することが重要です。

 そこでライフデザイン学科では、「測りがたい価値」を体得するために、学内外で様々な体験をする感性教育に力を入れた教育プログラムを設置しています。

 

 

ライフデザインの方法2-生活を総合的に学ぶ

 生活は生活の各分野間で密接に関係していて、さらに先ほど指摘した社会の情勢とも連動しています。したがって、1つの生活分野の充実を図ろうと思ったら、その分野の事ばかり学んでも目的を達成できるとは限りません。関連する様々な分野や要素との関係を知り、それを総合的に理解することが重要なのです。

 わかりにくいと思いますので、1つ例を挙げてみましょう。日本においては、衣食住の生活分野別では住生活がまだまだ満足な状態にあるとはいえないため、ここではインテリアを取り上げてみましょう。

 みなさんの中で、自宅にせよカフェにせよ、おしゃれなインテリアを嫌いな人はいないでしょうし、多くの人はインテリアに興味をもっています。しかし、人はなぜインテリアに興味を持つのでしょうか。

 実はそれは、先に述べたワークライフバランスの問題と関係しているのです。日本もヨーロッパももともと農耕社会でしたから、人々の仕事場は家の近くと家の内部であり、商人や職人もまた自宅で商売、製作をしていましたから、家というのは生産の場だったのです。それが、工業化社会が到来し、人々は工場、企業に雇われ、通勤することが働くということになりました。この時にワークライフバランスの問題が芽生えるのですが、同時に人々が家に求めるものが変わったのです。職場では効率性、合理性が求められますから人々は緊張を強いられます。その分人々は家庭にやすらぎやくつろぎを求めるようになり、そこで初めて「インテリア」という概念が誕生したというわけなのです。

 

 それでも、自宅に来客があれば、やはり姿勢をただす空間も必要です。それが応接間というものでしたが、都市部では自宅に来客を上げるということがなくなり、現在の住宅とインテリアはほぼくつろぎという機能だけを求めるものとなっています。

 インテリアは家族関係とも大いに関係します。明治時代の家父長制のもとでは食事は静かに行うものであり、家族は一人一人お膳を用意して食事をしていました。が、次第にヨーロッパの影響もあって食事は団らんの時とみなされるようになり、家族の団らんを促すちゃぶ台が登場し、今では椅子に座りながら団らんできるテーブルが主役となっています。

 

 このように、インテリアは個人の働き方や家族がどうあるべきかという価値観を反映し、それに応じるものであり、それ自体のおしゃれさ、美しさだけでは測れない機能をもつことをわかっていただけると思います。

 また、インテリアは自然とも関係しています。無垢の木材などの自然素材で作った家具・調度品、おもちゃなどは人々の気持ちを落ちつかせますし、アールヌーヴォの唐草模様をはじめ、多くのインテリアデザインは自然の造形をモチーフにしているなど、自然をとりいれることで安らぎの空間を演出しています。他方で、インテリアは、使う素材によっては、健康や地球環境の悪化の原因となることがあります。例えばビニールクロスや合板で作った家具の接着剤が化学物質過敏症を引き起こしたり(「シックハウス」と呼ばれる問題です)、安価な輸入材が東南アジアの森林伐採に関連していたりします。

 

 最後にインテリアは、アイデンティティと関係しています。どんな住空間で育ち、どんなモノと長く付き合ったかが、その人の人となりの一部となるのです。これを「自己拡張」といいます。思い出のある家具と長く付き合うことで、とりわけ人生の後半が精神的に豊かになるのですが、現在では合板でつくられた安手の家具が出回り、気分によって買い換えられるという利便性と引き換えに、家具を自分自身の分身と思えるような付き合い方が存在するということすらわからなくなっています。

 以上から、インテリアは、美しさの次元とは別に、人々の人格、家族から自然にまで広く関係を持っているということをわかっていただけたかと思います。したがって、未来のインテリアのあり方は、未来の日本人の生活全体がどうなっているのか、あるいはどうあるべきなのかを考えることとの関連の中で考えなくてはならないのです。つまり、「今」だけの価値観からの判断ではなく、「未来の自分からのまなざし」を向けて今の決定を行うという長期的視野が必要なのです。若いうちの「かわいい」という価値観だけで選択してしまうと、途中で飽きがきて、廃棄して地球環境に悪影響を与えるとともに「自己拡張」の機会をなくしてしまって自分自身にも悪影響を及ぼすかもしれません。

 ここではインテリアを例にとって、生活の総合性を考えてみたわけですが、これは生活の中の他のモノ(衣服、食事、生活用品、街並みなど)から考えても、生活のコト(行事、余暇、観光など)から考えても、はたまた生活のヒト(家族、地域住民など)や自然(観葉植物、公園、里山など)から考え始めても、すべて他の要素とつながり、さらに少子高齢化、情報化、グローバル化といった社会の変化に大いに影響され、また影響していることがわかるはずです。そして、これを読み解いてこそ、生活のそれぞれの要素、場面を総合した「真の豊かさ」を構想することができるようになるのです。

 

(ライフデザイン学科・宮田安彦)