ライフデザイン学科 研究室ブログ LABORATORY BLOG

古民家カフェ探訪 第7弾
2022年8月26日

 ライフマネジメント研究室では、ライフデザインの理念を空間として象徴しているような古民家カフェを訪れ、オーナーの思い、インテリアへのこだわり、食への配慮、地域とのかかわりなどを尋ねるプロジェクトを開始しました。

 そのシリーズ第7報をお届けいたします。

 

 第7回となる古民家カフェ探訪。今回訪れたのは、東京都目黒区自由が丘にある古民家カフェ「古桑庵」(読み方:こそうあん)さんです。東急目黒線自由が丘駅から徒歩5分、昔懐かしい外観と雰囲気を持つ古民家カフェです。古民家カフェ探訪第2弾で先輩方がここを訪れて書いたブログを読み、私たちも「古桑庵」さんに是非行ってみたいなと思いました。

 また、帰路、目黒雅叙園で開催されていた「アートイルミネーション 和のあかり×百段階段2022 ~光と影・百物語~」に立ち寄ったので、この2つについてレポートします。

 

◎古桑庵(東京都自由が丘)

 初めてお邪魔しても、どこか懐かしさを感じる「古桑庵」さんのカフェ。そのこだわりや歴史について、店主の中山さんにインタビューをしました。

テスト

◇いつ頃からやっておられますか?

 1999年3月からです。

◇カフェを出したきっかけは何でしたか?

 最初にお店を出そうとしたのは、私の母でした。母は人形などを手作りして、自宅で年一回展示販売をしていました。年を取って作り置きするのが大変になり、違う形でお客様に見てもらいたいということで、離れを使ってお店を出したのがきっかけでした。

◇「古桑庵」の名前の由来はありますか?

 夏目漱石の娘婿であり、祖父のテニス友達であった松岡譲に名づけられました。

 1954年に家族が増えて部屋を増やそうと建て増しをした際に、彼の田舎の新潟県長岡から桑の古材を持ってきて、離れに張ったことが名前の由来となりました。

◇カフェを経営するうえで大切にしていることは何でしょうか?

 原点は、客人の来訪が大好きな両親が、客があればいつでも料理を出して歓待していたことです。父の同僚や後輩が来るのを、母が楽しそうに接待しているのを見て育ったことで、お客様を自宅に招くように、自分の友達が来てくださったように接しようと決めました。その初心を今でも大事にしています。

 

◇おすすめのメニュー、こだわりはなんですか?

 開店にあたりこだわったのは、素材が良いものであるということと、自分たちが食べておいしいと思えるものをお出しすることです。20年以上前に、珈琲の濃さや豆をいろいろと試して、絶対においしいと思えるものだけをお出しすると決めました。

 おすすめは、抹茶類、あんみつ、ぜんざいです。今は、どれも同じくらい売れていますが、数年前の抹茶ブームの時は、外国人は抹茶ばかり頼んでいたし、寒天の感触が合わないという人もいるので流行に左右されず、自分が食べたいものを頼んでほしいと思います。

 

◇こだわりの素材はありますか?

 抹茶に関しては、お茶屋さんもびっくりするほどの選りすぐりの抹茶を使っています。飲み物にはお菓子を、食べるものにはお茶をセットで出しているのですが、抹茶類だとその時々で一緒に出すお菓子は変わります。取り寄せて私がおいしいと思うものの中から、値段や日持ちなどを考慮しながら妥当なものを選んでいます。

 

◇カフェに飾られている暖簾は昔からあるものですか?

 トイレの前、厨房の前、奥と三か所。いずれも着物をほどいて再利用したものです。若かりし頃の着物の素材を使っているので、素材はいいものです。

◇部屋の棚に飾られている刀や器は受け継がれたものですか?

 そうです。幼いころから変わらずに、置いてあります。

 「古桑庵」では畳の上でくつろいでいただくのですが、靴を脱いで上がることが今の方たちにとっては珍しいみたいです。土日とか、靴が一杯おいてあると、田舎のおばあちゃん家みたい、法事みたいって言って入って来ます。

◇どのようなお客さんが来ますか?

 30、40代が中心です。畳に上がることが、年を取った方には大変なので敬遠されてしまうのも理由の一つかもしれません。最初の頃は、色々なホームの方たちが、抱っこされ、車いすに乗せられて来ていましたが、最近それも無くなりました。お座敷で赤ちゃんを寝かせられるので、赤ちゃん連れも多いですね。

 

◇今後の目標は?

 お店をするのは、下準備や裏での仕事が多く、体力的に大変です。給仕では助けられながらやっていますが、材料を購入しに行ったり、お金の管理をしたり、思ったよりも大変なことが多く、後何年やれるだろうかと考えます。できるだけ長く続けたいですね。

 

 インタビュー後は、古桑庵さんこだわりの茶菓子を頂きました。

 私(砂塚)は、「抹茶ぜんざい」を頂きました。お茶屋さんもびっくりするような品質を厳選している古桑庵の抹茶は、濃厚な茶葉と優しい甘さで、本物の抹茶の味を知ることができました。モチモチとした白玉と、余分な甘さのない小豆は、ぜんざいとしての抹茶ともよく合います。付属の昆布茶は、塩昆布の程よい塩味がお茶に溶けだしており、抹茶ぜんざいの甘い後味が引き締められました。ほっこりとあたたかな気持ちになるような茶菓子です。

 私(佐藤)は、「クリームあんみつ」を頂きました。季節のフルーツのスイカ、キーウイやグレープフルーツ、甘くてクリーミーなバニラアイス、おもち、粒あん、寒天が入っています。その上から好みで黒蜜をかけて食べました。寒天やアイス、フルーツにより暑い夏に食べると非常にスッキリとしました。そこに、黒蜜とあんこの甘さが加わり、よく合いました。甘すぎず、すっきりとした味わいでとても美味しかったです。

 

 今回お邪魔した「古桑庵」は、縁側、庭園、畳などのある、伝統的な木造建築であるため、歴史や自然の温もりを感じられました。また、スタッフのやさしさも手伝って、豊かな時間を過ごすことができました。まるで祖父や祖母の家に遊びに来たような、あたたかい雰囲気の古民家カフェであるため、のんびりと足を伸ばしてリラックスして過ごすことができ、「文化的豊かさ」「社会的豊かさ」「自然的豊かさ」など、「真に豊かな生活」に求められる要素がつまっている場所だと思います。(砂塚)

 

 靴を脱いで畳に上がって過ごすカフェは、家にいるような居心地の良さがありました。また、店員さんのいる厨房と、お客さんのいる部屋が分かれているため、慌ただしくなく、ゆっくりとした時間を過ごせます。街中にあるチェーン店や写真映えするカフェとはまた違った和の雰囲気を楽しめるカフェだと思いました。暖かい雰囲気で包んでくれる古民家カフェは日本の伝統的な文化を味わえる場所だと思いました。(佐藤)

 

 

◎目黒雅叙園の「アートイルミネーション 和のあかり×百段階段2022 ~光と影・百物語~」

 

 古桑庵さんを訪れた後は、「アートイルミネーション 和のあかり×百段階段2022 ~光と影・百物語~」を訪れました。期間限定で、2022年7月2日(土)~9月25日(日)まで、ホテル雅叙園東京内の東京都指定有形文化財「百段階段」で開催されているイベントです。

 「光と影」を展示テーマに、日本ならではの和の様相や伝統技術と、怪談、幽霊、妖怪を融合させ、独特の雰囲気を「和のあかり」で醸し出しています。怪談の百物語では、「百段階段」の九十九段の階段を上り終え、百番目の怪談が語り終えられた時に、本物の怪奇が現れるとされています。遊園地のお化け屋敷よりも怖さを感じさせられる空間演出でした。

 

◇百段階段

 1935年に建てられた木造建築で、7つの、それぞれ趣向の異なる部屋を、ケヤキの1枚板が張られた99段の長い階段廊下が繋いでいます。 この「百段階段」は、2009年に、東京都の有形文化財に指定されました。今回のような展示物がなくても、それ自体が美しいものです。

◇金魚ちょうちん

 柳井の民藝品でもある『金魚ちょうちん』をモチーフにしたものです。これは、夏の一大イベントお盆等で規制された方々をふるさとの民藝品でお迎えするものだと言われています。

 この展示会では、入口に約4000個の金魚ちょうちんが装飾され、灯りをともしていた為非常に綺麗でした。

 

◇小田原風鈴

 柏木美術鋳物研究所の小田原風鈴です。これは、 平安時代に起源を持つ相模鋳物で、小田原の鋳物は1534(天文3)年に河内から来往した山田次郎左衛門が鋳造場を開いたことが始まりであると言われています。近代になり、大量生産の波に押された小田原の鋳物業が徐々に衰退していく中でも、銅合金鋳物など新たな技術とともに継承され、現在では唯一残る鋳造場として鳴物を中心に製造を続けています。

◇いけばな(古流かたばみ会)

 江戸時代から継承されてきた伝統様式である「生花(せいか)」と、植物の魅力を造形的に表現する「現代華(げんだいか)」を指導の大きな柱としている「古流かたばみ会」の作品です。

 この作品を製作した大塚理航は、従来の価値観に捉われない作風と、いけばなの普及・研鑚に努める若手華道家とのことです。

◇3Dニット照明

 明治時代よりおおよそ130年の歴史をもつ、日本一の手袋産地である香川にて、1996年(昭和41年)に創業したニット製造販売を行う企業である株式会社イチ―ナ。同社が展開するThinKniT®による、植物の葉脈を思わせる有機的なデザインと天然素材の美しさは、自然と技術の調和を感じさせるものでした。

◇静水の間

 この展示会では、部屋ごとに違う雰囲気の作品が置いてあります。数ある部屋の中でも、この『静水の間』にあった作品は印象に残っています。

 この作品は、約2mの非常に大きな物で、その大きさに圧倒されました。作品の右手前にある棒の先端にとりつけられた銀の丸は鏡になっており、そこを見ると作品が逆さまになって見えます。現実で見ている作品の姿と、この鏡から見る姿では全く違う様子であり、不思議な感じでした。

 

◇壁抜け猫又 / 地中より生まれる / 化粧

 これらは、2000年第1回「日本招き猫大賞」受賞した後、古典や企画展など多数を開催している造形作家、小澤康麿の作品です。 「だまし絵」などの視覚的な遊びを立体化するなど、見て楽しく、驚きのある作品を生み出しているユニークな作風のアーティストだとのことでしたが、展示されている作品をみて納得しました。

 

◇情念のあかり

 『情念のあかり』の部屋では、歌舞伎にみる「恋の情念」を「創造的なあかり」として展示していました。その時代の怪談話や、恋物語を紹介すると共に、それに合った作品が展示されています。ここからは、その物語を簡単に紹介します。

~牡丹灯籠(ぼたんとうろう)~

 明治の三遊亭圓朝による落語の怪談話で、若い女の幽霊が男性と逢瀬を重ねたものの、幽霊であることがばれ、幽霊封じをした男性を恨んで殺すというストーリー。

 

~六条御息所(ろくようのみやすところ)~

 源氏物語に登場する桐壺帝時代の前東宮の妃で、光源氏の恋人の一人であるが、強い嫉妬のあまり、生霊として源氏が愛する女君たちを殺めようとするという物語。

 

~八百屋お七(やおやおしち)~

 江戸時代前期、江戸本郷の八百屋の娘の物語。井原西鶴の「好色五人女」に取り上げられたことで広く知られるようになったもの。火事で焼きだされ、寺に避難したお七はそこで知り合う子姓と恋仲になります。やがて、店は立て直され一家は寺を引き払いますが、恋心は募るばかりでもう一度家が火事になればまた会えると思い放火をしてしまうという物語。お七が刑に処された後、出家した吉三郎がお七を供養する為に清めたという井戸跡が目黒雅叙園東京前に残されている。

 これらの物語のように、この部屋ではすこし薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていました。

 

◇竹あかり

 ここでは、「共生創造」をテーマにしており、細かい所まで手を加えて彫られた竹のデザインに、暖かいあかりが印象的でした。

 また、天井や壁には、様々なデザインの絵が描かれており、幻想的な世界が広がっていました。

 部屋と展示物と音楽が見事にマッチしており、非常に怖かったです。しかし、同時に、日本の怪談などの文化や伝統技術を体感することができ、改めて、日本の伝統文化の価値を学ぶことができたように思います。(砂塚)

 各部屋で雰囲気が全く異なり、様々な作風の展示物に触れることが出来ました。また、この展示会のコンセプトでもある「怪談」が、暗さや音楽、部屋の温度で表現されており、目だけではなく体で楽しめました。普段感じる機会が少なくなっている日本の文化的価値である「和」に触れる良い機会になりました。(佐藤)

 

◎まとめ

 古民家カフェの「古桑庵」さんも、ホテル雅叙園東京の「アートイルミネーション 和のあかり×百段階段2022 ~光と影・百物語~」も、どちらも、現代の人に受け入れられやすい形で和の伝統を魅せて、現代・未来へ繋ごうとしています。皆さんも、是非訪れてみてください! 

 

報告者: 砂塚・佐藤・雨宮

訪問日:2022年8月