ライフデザイン学科 研究室ブログ LABORATORY BLOG

自然派住宅探訪プロジェクト 第3弾 「田無の家」の小舞掻きと土壁塗り
2022年6月14日

 先日、ライフマネジメント研究室の19期生が、西東京市の住宅建築現場「田無の家」(一級建築設計事務所「無垢里」設計)を再度訪れ、人生で初めて小舞掻きと土壁塗りの作業を体験しました。

 

●小舞掻き体験

 小舞掻きは、壁の下地となる竹や木を縄で絡め、組む作業のことを指します。これが「小舞」という、土壁を塗る下地となるのです。

 すでに出来上がった小舞を見ると大変複雑な仕組みのように思え、私たちが同じようにできるかどうか不安な気持ちになりましたが、「無垢里」代表の金田氏による助言やお手本の提示をいただくことで、案外簡単であることがわかり、気づけば初心者の私たちも無心で作業がしていました。ですが、やはり難しい点もいくつかありました。

 1つ目は、縄を竹に絡ませるため、竹を固定しておかなければならない点です。でないとせっかく結んだ縄が緩み、竹が傾くことで、後に結ぶ縄にも影響が及んでしまいます。他の参加者たちは1人で作業をしていましたが、私たちは知恵を絞り、2人1組になって片方が竹を支え、もう片方がその間に縄で結ぶといったチームプレイをして、作業を効率化しました。

 2つ目は、縄を結ぶ手に、常に力を入れ続けないとすぐに縄が緩んでしまうという点です。これも1つ目の問題点と同じように、二人三脚による作業によって、互いに声を掛け合いながら組みました。

 小舞という仕組みは、単純であり、各部分は脆弱そうに見えるのですが、ひとたび小舞が完成すると、非常にしっかりしたものとなることがわかりました。

●土壁塗り体験

 後日、再び現場を訪れ、土壁塗りを体験させていただきました。土壁は粘土質の土を適量の水、藁と混ぜて発酵させたものを原料とし、小舞掻きで作った格子状の竹に塗っていきます。土に混ぜる水の量が多い場合、伸ばしやすいため職人の技で壁を塗るとロスが少なく仕上がりますが、それでは柔らかすぎて素人の手には余るとのことで、竹にひっかかりやすい程度の柔らかさに調整された土を使いました。

 コテとコテ板を活用し、下の方から少しずつ塗っていきます。コテを強く押し付けすぎると土が格子をはみ出し、反対側に飛び出てしまいますが、弱すぎると土が落ちてしまうので、絶妙な力加減が必要です。

 はみ出てしまった裏面の土は、反対側の面も塗りやすくするために、小手を使ってつぶしていきます。この作業を数度繰り返し行うことで、分厚く、頑丈な壁に仕上げます。

 実際に作業を体験してみると、壁に土を塗る際、土の重さでコテから土がすぐに落ちてしまうため、要領をつかむのは結構難しかったです。しかし、没頭する内に楽しくなりました。そのうち、ただ塗るだけでは満足できなくなり、塗ったあとの表面の綺麗さにもこだわるようになりました。

 休憩時間中、金田氏から土壁についていろいろとお話を伺いました。それによると、土壁には、以下のようなメリットがあるそうです。

 1つ目は、耐火性・断熱性が高いことです。土は燃えない素材であるためです。

 2つ目は、調湿作用・脱臭効果です。室内の湿度が高いと、壁が水分を吸収し結露を防ぎ、室内が乾

燥すると吸収していた水分を放出し、快適な空間を保ちます。余分な水分を壁が吸収するので、カビやダニの発生を抑える効果も発揮します。脱臭効果は臭いだけでなく、汚れも吸着するので、室内の空気をきれいに保つことができます。

 3つ目は、吸音性、遮音性に優れていることです。外の騒音は家の中には届かないし、逆に家の中で音楽を演奏しても近所迷惑になることはないといいます。

 4つ目は、自然素材なのでアレルギーの心配が少ないことです。シックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドなど

の揮発性化学物質が使われていないため、また逆にそれを吸収するため、小さなお子様がいる家庭でも安心して住むことができます。

 5つ目は、自然素材であるため、やがては土に還ることです。もし家を取り壊すことになっても、環境に負荷をかけない素材なのです。

 このように土壁は、独特の質感を楽しみながら、人が快適に、しかも自然と共生しながら過ごすことを可能にする、すぐれものの素材なのです。

 ライフデザインが目指す「真の豊かさ」を構成する「自然的豊かさ」は、森林や公園の中での自然とのふれあいといったイメージが強いですが、実は無垢材や土、藁、竹、麻といった自然素材を通して普段の住生活の中で得られる快適性もまた大事な「自然的豊かさ」であることを、今回身をもって感じることができました。もちろん、こうした伝統的な技法は日本人の「文化的豊かさ」でもあります。しかし同時に、先人が開発したそんなエコな住まい方の知恵を現代の日本人が急速になくしつつあると聞いて悲しく思いました。

 

●カフェ 武蔵野茶房

 土壁塗りのあと、カフェ武蔵野茶房田無本店で、自分たちへのご褒美のスイーツを食べました。

 お洒落なすりガラスや暖簾がある、大正ロマンの雰囲気が漂う店内では、ジャズや、クラシックが流れ、リラックスできる空間が演出されています。

 スイーツの皿には生花が一輪添えてあったり、ウエイトレスさんの制服も可愛らしかったりと、さらにお洒落な雰囲気を演出する工夫がなされていて、心地よかったです。

 

訪問日:2022年5月3日(小舞掻き)、5月29日(土壁塗り)

執筆:雨宮・新井