ライフデザイン学科 研究室ブログ LABORATORY BLOG

自然派住宅探訪プロジェクト 第2弾 「田無の家」
2022年4月28日

 ライフマネジメント研究室の19期生は、西東京市の住宅建築現場(以下、「田無の家」と呼びます)を訪れ、木組みの見学を行いました。

 「田無の家」は、無垢の木材を使用し、木組みという伝統的な建築技法で建築が進められている住宅です。その設計者である「無垢里」代表の金田様と施主の方のご厚意で現場を見学させていただくとともに、いろいろな伝統技法のご説明をしていただきました。

 なお、「無垢里」は、手わざと手仕事を大切にする、代官山の建築設計事務所です。

 

◆無垢材がもつ断熱・調湿効果

 骨組みに屋根がかかっただけの状態の家でしたが、その内部に入ると、まず、木材に囲まれているためか、外と比べて涼しいと感じました。また、嗅覚や触覚でも木のよさを実感しました。木材の癒されるような良い匂いと、手に馴染むような温かさのある木材の触り心地は、現代の多くの規格化された家ではあまり感じられないものだと思います。

 聞けば、断熱性を高めるため、屋根材は厚さ40mmもの杉板を使っているとのこと。さらにその上に空気の隙間を確保して瓦屋根を乗せると、天井裏に断熱材などを入れなくても、真夏でも室温は外気温以上には上がらなくなるのだということでした。また南北の開口部の高低差をつけることで、室内の空気の流れがよくなり、夏でもエアコンがいらないくらいになるとのことです。

 また、木材や土壁には調湿作用があり、梅雨の時期には余計な湿気を吸ってくれるので室内はカラリとなり、冬は逆に湿気を与えてくれるのだということでした。

自然素材がもつ力を最大限に引き出すことで、化石燃料に頼らなくても快適な室内空間を作ることができるのだというお話には目から鱗が落ちる思いでした。

 

◆無垢材は高価なのでは?

 しかし、その分、材料費が嵩むのではないかと思いましたが、材料費よりも大工の手間賃が嵩むらしく、全体のコストを下げるために節ありの木材を使用したり(機能は変わらないのに見た目が悪いせいか単価が安くなるらしい)、山林の持ち主から直接木材を買い付けたりして、コスト削減の努力をしているとのこと。柱も機能面でかわらないのに低い等級の杉を使っているとのことでした。

 

◆はじめての伝統の技

 次に、「田無の家」に使用されている「蟻おとし」、「台持継ぎ」、「腰掛け鎌継ぎ」など、木組みの伝統技法について実物をみせて頂きながら説明をしていただきました。これは柱と梁などの材を接合したり(仕口)、同じ材を長くするために継いだり(継手)するときに、接合面に複雑な加工を施して(完成するとみえなくなってしまう)、離れたり、ねじれたり、抜けたりしないようにする、日本が誇る技法です(画像参照)。法隆寺を見てもわかるように、木材はメンテナンスをしっかりすれば1000年以上持ちますが、金具はそうはいかないので、金具に頼らず、木材だけでしっかり強度を出すために発達した技術です。「無垢里」では、法律上必要な部分を除いて、釘などの金具やビスは使用せず、木材のみで家を組み立てているそうです。 

「蟻おとし」 

 

「台持継ぎ」

 

◆「適材適所」の大元

 また、規格化された住宅では、使用する部材はプレカットといって、あらかじめ工場で一定の規格でカットされたものを現場で組み立てるだけですが、ここでは木材一つひとつの種類や育ち、性質などの個性を踏まえて、現場で一本一本調節しながら使用しているそうです。例えば、栗やヒノキはシロアリに強いので土台に使い、松はねばりが強いので梁に使うそうです。「適材適所」という言葉はここから生まれました。

 コンクリートにもこだわりがあり、通常はコンクリートミキサーから流し込むために含水率の高い生コンクリートを使うので耐久性は3,40年に留まるが、含水率を下げれば100年も200年も持つということですが、そうなると粘り気がでて生コンがミキサーから流れないため、ここでは現場で生コンを練って、手で基礎を作ったそうです。

 

◆もう一つの、でも昔ながらの耐震性確保の方法

 柱の穴を突き抜けて水平方向に何本もの木材が取り付けられています。これは、「貫(ぬき)」といって、普段は柱との間にくさびが打ち込んであってびくともしませんが、地震の際には家が左右に揺れることを可能にする仕組みであって、地震のエネルギーを、家を揺らすことによって分散させて逃がすようにできているのだそうです。現在の住宅では、壁に筋交い(すじかい)を入れて、揺れを全面的に受け止めて耐えるようになっているので、これと全く逆の発想に基づいているものです。いわば「剛」に対する「柔」のようなもので、こうした考え方と技法が昔にはあったのかと驚きました。

 

◆見学を終えて

 「田無の家」には、伝統的な工夫が多く施されています。その工夫を目の当たりにして、昔の人が、知恵を絞って、日本の風土に合わせた建築技法を発展させていったことを実感しました。この学びを、これからの伝統の在り方や豊かな暮らしを考える中で活用していきたいと思います。

 また、現代では、木組みは滅多に見ることができません。現代の多くの住宅は規格化され、量産されており、金具とビスを用いて、既にカットされた木材を組み立てるだけです。木材の個性を見ることもありません。そのため、今回、木組みの家を見学させていただいたことは、日本の住文化を体感的に知るという、非常に貴重な体験だと思いました。

 次回は、この「田無の家」で壁塗り体験をさせていただきます。これもまた、滅多に体験することのできない貴重な体験です。このような機会を設けていただき、「無垢里」の金田様、「田無の家」の家主様には、感謝申し上げます。

 

◆お土産

 「田無の家」の見学の際、私たちは、廃棄予定の杉の端材をいただきました。

 何か活用することはできないかと考え、私(砂塚)はスマートフォンスタンドとして活用してみました。木材のよい香りを嗅いでリラックスしながらスマートフォンを使用することができるため、癒されます。

  

 木の香りが良く、置いておくだけでも十分なのですが、私(冨澤)は穴を掘ってスピーカーにもなるスマホ置きを製作しました。 実際に使用してみると音も良く響き、木の香りからリラックス効果も得られるので大満足です。

 

◆田無神社に寄り道

 「田無の家」を見学させていただいた後に、近くの「田無神社」を訪問しました。

 車の通りの多いところに鳥居が見え、鳥居をくぐると本殿まで続く表参道がありました。この表参道は緑が豊かな上、風の通りがよく、都心にいることを忘れるような爽やかな空気が流れて居ました。

 中に進んでいくと、様々な工夫が施されており私たちが訪問した際には、ご神木の根元を保護するためのウッドデッキの改修工事が行われていました。訪問した日から数日が立ち、そのウッドデッキが気になり田無神社のホームページへアクセスしたところ、完成したようでその写真が載っていたのでここでも紹介します。このような伝統を守るための工夫があるからこそ神社が保たれているのだと感じました。

 

 そして、本殿である金龍神は正面に龍が彫られており、繊細な技術に圧倒されました。なんでも、有名な左甚五郎の子孫である彫刻師の嶋村俊表の作だそうです。

 田無神社には金龍神を含めて五龍神がお祀りされています。中心の本殿に金龍神、東方を青龍伸、南方を赤龍神、西方を白龍神、北方を黒龍神が御守護されています。

 また、境内にはおおきな銀杏の木があり、それぞれの龍の神様の御神木として多くの人に親しまれているそうです。

 

 境内には、とても面白いブースが設けられていました。それが「おみくじ処」です。数多くの様々な種類のおみくじがあり、それぞれ好きなおみくじを引けるのです。

 私たちはカラフルでひときわ目立っていた鯉(恋)おみくじを引きました。実際に釣り上げる工程から楽しむことができ、おすすめのおみくじです。

 田無神社では様々なイベントを行ったり「田無神社ラジオ」を放送したりしているそうです。気になった方は一度田無神社へ訪ねてみてはいかがですか。

 

参考資料:田無神社ホームページ田無神社 公式ページ(東京都 西東京市) (tanashijinja.or.jp)

 

執筆:砂塚・富澤

訪問日:2022年4月19日