みなさん。ごきげんよう。ライフデザイン学科長の宮田です。
「学科紹介」のページを見ていただいたと思いますが、いかがでしたか。学科の理念と特徴をかいつまんで示しているのですが、まだまだ学科の全体像はよくわからない という人もいるのではないでしょうか。
そこで、ここでは私から補足のお話をしてみたいと思います。また、みなさんも気にすると思われる卒業後のキャリアについても少しお話したいと思います。
さて、みなさんは「ライフデザイン」という言葉を目にしたり耳にしたりしたことはありますか。もしそうしたことがあった場合でも、人生・生活の設計(ライフプラン)の意味だと理解していたのではありませんか。でも私たちはライフデザインをもっと広い意味で使っています。それは簡単に言うと「自然と共生しながら、『真の豊かさ』を目指して、今までとは違った新しい日本人のライフスタイルをデザインする」ということです。
では、なぜ今までとは違ったライフスタイルが求められているのでしょうか。
私たちのライフスタイルは、経済成長や科学技術の発展の恩恵によって、さらにグローバル化の進行や情報社会の到来によって、かつてなく便利で快適なものになっています。しかし、他方で気候温暖化などの地球環境問題の悪化、ワークライフバランスがとれない働き方、子育てのしにくさ、家族形態の変化、都市部の過密化と地方の過疎化など、日々の生活を送るための基盤というべき部分に大きな問題を抱えています。
同時に、そうした状況はどこか外からやってきたものではなく、私たちがどんな生活を望み、営んでいるかによってもたらされるものでもあります。つまり、私たちの生活とこれを取り巻く環境は、相互に影響し合って時代を形作るという一蓮托生、もしくは共犯の関係にあるのです。
よって、もし現在の状況に問題があるのであれば、それを乗り越えるために、どのようなライフスタイルが望ましいかを真剣に考える必要がでてきました。ここに、ライフデザインが求められる理由があるのです。
ライフデザインの目標は、経済的な豊かさを超えた「真の豊かさ」の実現です。「真の豊かさ」は、例えば、自分居場所や生きがいをもつこと、良好な家族関係をもつこと、機能的であるばかりでなく美しい生活用品・室内空間と接すること、見た目に心地よくて美しい地域の住まうこと、日本の伝統を賞味すること、充実した余暇活動をもつこと、自然とのふれあいが豊富であることなどから得られる「心の豊かさ」を指し、そしてそのようなライフスタイルが持続可能であることを意味しています。
ところが、こうした質的な豊かさに値段はつけられませんから数値化されにくく、したがって私たちは往々にしてその価値に気づかないのです。「すばらしい景観だ」「楽しい交流会だった」「味のある食器だ」と思っても、それに客観的な点数はつけられませんよね?質的に評価しにくいものは、価格(市場での交換価値)で評価されてしまい、安いものは粗末にされがちですが、安いから悪い、高いからよいとは限らないことは皆さんのこれまでの経験からも分かるのではないでしょうか。大量生産するから安くなり、安いからといって大量廃棄しているのでは、地球環境に「悪い」のは当然のことながら、実は自分自身にも「悪い」ことかもしれないのです。よって、「真の豊かさ」をめざすには、まずそれらの「測りがたい価値」に気づくことから始めなければなりません。
さらに、モノや家、場所は、それと長く接することで自分自身の過去や誰か大事な人との思い出が込められて、自分自身の一部になるという性質を帯びています。こちらの場合は見た目が美しいとは限りません。古びたモノであっても、多少猥雑な場所であっても、その中に「見えない価値」が存在しているものなのです。こちらも表面的な経済的価値からは推し量ることはできません。
ではどうしたらその「測りがたい価値」「見えない価値」に気づくことができるでしょうか。もちろん、生活の様々な分野にそうした価値があるという事実についての知識学習をすることが重要です。特に「見えない価値」の理解のためには最も大事なことです。
しかし、「測りがたい価値」については、頭で理解するだけでは本当に理解したとはいえません。芸術作品や美しい風景を評論家のコメントつきの写真でみても、その美しさが腑に落ちないのと同じです。知識を得たあとは、それを実際に体感・体得することが重要です。
そこでライフデザイン学科では、「測りがたい価値」を体得するために、学内外で様々な体験をする感性教育に力を入れた教育プログラムを設置しています。
生活は生活の各分野間で密接に関係していて、さらに先ほど指摘した社会の情勢とも連動しています。したがって、1つの生活分野の充実を図ろうと思ったら、その分野の事ばかり学んでも目的を達成できるとは限りません。関連する様々な分野や要素との関係を知り、それを総合的に理解することが重要なのです。
わかりにくいと思いますので、1つ例を挙げてみましょう。日本においては、衣食住の生活分野別では住生活がまだまだ満足な状態にあるとはいえないため、ここではインテリアを取り上げてみましょう。
みなさんの中で、自宅にせよカフェにせよ、おしゃれなインテリアを嫌いな人はいないでしょうし、多くの人はインテリアに興味をもっています。しかし、人はなぜインテリアに興味を持つのでしょうか。
実はそれは、先に述べたワークライフバランスの問題と関係しているのです。日本もヨーロッパももともと農耕社会でしたから、人々の仕事場は家の近くと家の内部であり、商人や職人もまた自宅で商売、製作をしていましたから、家というのは生産の場だったのです。それが、工業化社会が到来し、人々は工場、企業に雇われ、通勤することが働くということになりました。この時にワークライフバランスの問題が芽生えるのですが、同時に人々が家に求めるものが変わったのです。職場では効率性、合理性が求められますから人々は緊張を強いられます。その分人々は家庭にやすらぎやくつろぎを求めるようになり、そこで初めて「インテリア」という概念が誕生したというわけなのです。
それでも、自宅に来客があれば、やはり姿勢をただす空間も必要です。それが応接間というものでしたが、都市部では自宅に来客を上げるということがなくなり、現在の住宅とインテリアはほぼくつろぎという機能だけを求めるものとなっています。
インテリアは家族関係とも大いに関係します。明治時代の家父長制のもとでは食事は静かに行うものであり、家族は一人一人お膳を用意して食事をしていました。が、次第にヨーロッパの影響もあって食事は団らんの時とみなされるようになり、家族の団らんを促すちゃぶ台が登場し、今では椅子に座りながら団らんできるテーブルが主役となっています。
このように、インテリアは個人の働き方や家族がどうあるべきかという価値観を反映し、それに応じるものであり、それ自体のおしゃれさ、美しさだけでは測れない機能をもつことをわかっていただけると思います。
また、インテリアは自然とも関係しています。無垢の木材などの自然素材で作った家具・調度品、おもちゃなどは人々の気持ちを落ちつかせますし、アールヌーヴォの唐草模様をはじめ、多くのインテリアデザインは自然の造形をモチーフにしているなど、自然をとりいれることで安らぎの空間を演出しています。他方で、インテリアは、使う素材によっては、健康や地球環境の悪化の原因となることがあります。例えばビニールクロスや合板で作った家具の接着剤が化学物質過敏症を引き起こしたり(「シックハウス」と呼ばれる問題です)、安価な輸入材が東南アジアの森林伐採に関連していたりします。
最後にインテリアは、アイデンティティと関係しています。どんな住空間で育ち、どんなモノと長く付き合ったかが、その人の人となりの一部となるのです。これを「自己拡張」といいます。思い出のある家具と長く付き合うことで、とりわけ人生の後半が精神的に豊かになるのですが、現在では合板でつくられた安手の家具が出回り、気分によって買い換えられるという利便性と引き換えに、家具を自分自身の分身と思えるような付き合い方が存在するということすらわからなくなっています。
以上から、インテリアは、美しさの次元とは別に、人々の人格、家族から自然にまで広く関係を持っているということをわかっていただけたかと思います。したがって、未来のインテリアのあり方は、未来の日本人の生活全体がどうなっているのか、あるいはどうあるべきなのかを考えることとの関連の中で考えなくてはならないのです。つまり、「今」だけの価値観からの判断ではなく、「未来の自分からのまなざし」を向けて今の決定を行うという長期的視野が必要なのです。若いうちの「かわいい」という価値観だけで選択してしまうと、途中で飽きがきて、廃棄して地球環境に悪影響を与えるとともに「自己拡張」の機会をなくしてしまって自分自身にも悪影響を及ぼすかもしれません。
ここではインテリアを例にとって、生活の総合性を考えてみたわけですが、これは生活の中の他のモノ(衣服、食事、生活用品、街並みなど)から考えても、生活のコト(行事、余暇、観光など)から考えても、はたまた生活のヒト(家族、地域住民など)や自然(観葉植物、公園、里山など)から考え始めても、すべて他の要素とつながり、さらに少子高齢化、情報化、グローバル化といった社会の変化に大いに影響され、また影響していることがわかるはずです。そして、これを読み解いてこそ、生活のそれぞれの要素、場面を総合した「真の豊かさ」を構想することができるようになるのです。
そこでライフデザイン学科では、学生がこうした複雑な関係に気づき、理解できるように、3つの領域(家庭、地域・社会、自然)と「豊かさ」の4つの要素(内面的、社会的、文化的、自然的)からなるマトリックスを設定し、これらを段階的に、万遍なく学修することを応援する「学修ポートフォリオ」を用意しています。
このように、ライフデザイン学科は他大学の家政学部や生活科学系学部にはないユニークな学びを提供することで、いわゆるジェネラリストを養成する学科となっています。
「ジェネラリスト」という言葉は聞いたことがないかもしれませんが、その反対語である「スペシャリスト」は知っているのではないでしょうか。スペシャリストは1つの分野に特化して深い知識と高い技能をもっている人材のことですが、反対にジェネラリストは特定の分野に特化せず、視野を広くもって全体を理解する力と、全体的な問題解決ができる技能を持っている人材のことです。高校生のみなさんが社会にどんな職業があるかを想像するときは、どうしても資格と関連付けられるような○○士とか○○コーディネーター、自営業である○○屋をイメージすることが多いと思いますが、実際の企業や役所の運営の多くはジェネラリストが担っています。
ライフデザイン学科は、卒業生の就職が有利になることを特に狙いとはしていませんが、生活を総合的に理解できる能力の育成を図ることが、結果として企業や行政のマネジメントにおいて必要とされているジェネラリストを育成しているというわけです。その結果、本学科の卒業生は、住宅・不動産、アパレルメーカー、商社、銀行、小売、流通、公務員と幅広い業種で受け入れられています。
ところで、これからはAI(人工知能)が人間の仕事を奪っていくAI時代が到来するといわれていて、将来の就職を不安に思う人も多いのではないでしょうか。確かにAIが発達すればするほど高度な知識もまたAIが代替してしまうことでしょう。高度な情報をだれもが取り出せるようになるわけですから、個人が頭に詰め込んだ知識の量で他人に勝とうとすることは意味をなさなくなることでしょう。
では、そんな時代において人が培うべき能力はどのようなものでしょうか。それは、計算できない事柄についての能力だと私は思います。例えば、企業の仕事でいえば、あいまいな状況の中でゴールを明確化したり、問題解決のために情報を総動員して優先順位を付けたりする「戦略立案能力」、チームのやる気を高めたり、他人に共感したりできる「対人関係能力」、全く関係のなさそうな知識と知識を結びつけて全体的なコンセプトを描けるような直観的で柔軟な発想、美しいものを美しいと評価できる感性などです(高校生にみなさんにとっては、ちょっとわかりにくかったでしょうか・・・)。
ライフデザイン学科は、計測しがたい質的な豊かさの向上をめざして、生活を総合的に学ぶ場ですから、学生のみなさんが真摯にこの課題に取り組むのであれば、その努力は自ずとAI時代の人間に求められる能力を養成することにつながると確信しています。
長いメッセージをここまで読んでくださったみなさん。いかがだったでしょうか。ライフデザインとライフデザイン学科のことをより深く理解いただけましたか。
世の中の動向に目をやると、以前からスローライフ運動やトランジション運動など、ライフデザインを実践する動きはあったものの、世の中の主流とはなっていませんでした。しかしここにきて、国際連合が、世界全体が共通して目指すべき方向があるとして、17項目からなるSDGs(持続可能な開発目標)を設定するなど、新しいライフスタイルの必要性を認識する度合が社会全体、世界全体に急速に広がってきています。
大妻女子大学のライフデザイン学科は、21世紀に入ってすぐの2002年の設立以来、そうした動きを先取りしてこの課題に取り組んできました。そして、試行錯誤を重ねながら総合的理解力・感性を養うための教育の質を向上させてきています。
あとは関心と意欲をもつみなさんの入学を待つのみ!あなたも、多彩な能力をもつ教授陣や同じ志を持つ仲間と共に日本や世界の明るい未来のために「ライフデザイン」を学んでみませんか?
*ここで掲載した写真はすべて著作権フリーの画像を使用しています。イラストや図表の著作権は大妻女子大学家政学部ライフデザイン学科に帰属します。
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